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トップセールスが売上ではなく期待値で案件を見る理由

案件の一覧を、金額の大きい順に並べていないでしょうか。大きな金額の案件に、時間と気持ちを取られているうちに、本当に取れる案件が、静かに逃げていく。年収の高い営業ほど、この罠に気づいています。

トップセールスは、売上ではなく、期待値で案件を見ます。そして、時間当たりの期待値で、どの案件に自分の時間を使うかを決めます。この記事では、その考え方を、経営の概念である期待値と機会費用から、営業の現場の使い方まで落とし込みます。

まず結論

案件の価値は、金額ではなく、期待値で測ります。期待値とは、案件の金額に、受注できる確率を掛けた値です。そして、自分の時間は有限なので、期待値を、その案件に必要な時間で割った、時間当たりの期待値で優先順位をつけます。

この見方に立つと、追わない案件を決めることが、勇気ではなく、計算になります。金額が大きくても、確率が低く、時間がかかる案件は、機会費用が大きいので、手放す判断が合理的になります。

案件の大きさに惹かれる前に、その案件に使う一時間の価値を、他の案件と比べてください。

なぜこの問題が起きるのか

なぜ、金額で案件を見ると、判断を誤るのか

金額は、見えやすい数字です。だからこそ、判断を引っ張ります。五千万円の案件と、一千万円の案件があれば、五千万円に時間をかけたくなる。けれども、五千万円の案件の受注の確率が十パーセント、一千万円の案件が七十パーセントなら、期待値は、五百万円と七百万円で、逆転します。

もう一つの罠は、確率を、感覚で付けてしまうことです。担当者は、自分の案件を楽観的に見がちです。関係が良好だと、確率を高く見積もる。けれども、受注の確率を決めるのは、関係の良さではなく、決裁者への到達、予算の確保、稟議の見通しといった、事実です。

経営視点で見ると何が問題なのか

期待値と機会費用

期待値は、不確実な結果を、一つの数字で比べるための、基本的な考え方です。案件ごとに、受注の金額と確率を掛けます。複数の案件を持っていれば、期待値の合計が、その期間に見込める売上の中心的な値になります。

もう一つ、機会費用の考え方が欠かせません。ある案件に一時間を使うことは、他の案件に使えたはずの一時間を、手放すことです。判断の基準は、その案件の期待値が高いかではなく、他に使うよりも高いかです。

経営の言葉で言えば、営業の時間は、最も希少な資源の一つです。年収の高い営業ほど、その時間の価値が高いので、機会費用も大きくなります。だから、低い期待値の案件に時間を使うことの損失は、他の人より大きいのです。

トップセールスはどう考えるか

追わない案件を、先に決める

トップセールスの特徴は、案件を追うのが速いことよりも、追わない案件を決めるのが速いことです。最初の面談の段階で、決裁者への道筋があるか、予算は確保されそうか、導入の時期に切迫感があるかを確かめます。これらが見えなければ、早い段階で、優先度を下げます。

彼らは、競合の存在だけでなく、何もしない、という選択肢も競合だと考えます。顧客が、現状維持を選ぶ可能性が高い案件では、時間をかけても、期待値は上がりません。だから、顧客が動かなければならない理由、つまり、放置したときの損失を、最初に言葉にしてもらいます。

時間の配分も、数字で決めます。確率が高く、金額が大きく、決裁までの期間が短い案件に、時間を集中する。確率が低い案件は、低いコストで関係を維持して、状況が変わるのを待つ。平均的な営業は、案件の数を増やして安心します。トップは、時間の配分を変えます。

営業責任者はどう設計するか

確率を、事実で決める仕組み

営業責任者の仕事は、確率の付け方を、個人の感覚から、組織の基準に変えることです。フェーズごとに、受注の確率の目安を決め、フェーズの進行の条件を、顧客側の行動で定義します。決裁者に説明する場が設定されたら、次のフェーズ。社内の承認の経路が確認できたら、さらに次、というようにです。

次に、予測と実績を比べます。毎月、フェーズごとの確率で見込んだ受注と、実際の受注を比べて、確率の付け方が楽観的か、保守的かを確認します。外れ方に偏りがあれば、基準を修正します。

最後に、週次の案件レビューで、時間当たりの期待値の高い順に、案件を並べて見ます。担当者が、高い期待値の案件に、十分な時間を割けているかを確かめ、足りなければ、低い期待値の案件を手放すか、他の人に渡します。

数字で分解する

時間当たりの期待値の計算を、具体的にやってみます。数字は説明用です。三つの案件があります。案件Aは、金額が四千万円、受注の確率が二十パーセント、受注までに必要な営業の時間が八十時間とします。案件Bは、金額が千五百万円、確率が六十パーセント、必要な時間が二十時間です。案件Cは、金額が八百万円、確率が七十パーセント、必要な時間が十時間です。

期待値は、案件Aが八百万円、案件Bが九百万円、案件Cが五百六十万円です。金額では、Aが最大ですが、期待値ではBが最大です。さらに、時間当たりの期待値を計算すると、案件Aが十万円、案件Bが四十五万円、案件Cが五十六万円です。つまり、一時間の価値が最も高いのは、金額が最小の案件Cです。

もちろん、実際には、時間をかければ確率が上がる案件もあります。そのときは、追加の一時間が、確率をどれだけ上げるかを考えます。追加の時間で、確率が大きく上がる案件に、次の時間を割く。これが、限界的な価値で判断するということです。

図表|案件の時間当たりの期待値(数値は説明用)
案件金額受注の確率期待値必要な時間時間当たりの期待値
案件A4000万円20パーセント800万円80時間10万円
案件B1500万円60パーセント900万円20時間45万円
案件C800万円70パーセント560万円10時間56万円

編集部の整理です。数値は説明用です。

ここでは、三つの案件を、時間当たりの期待値で比べます。案件Aは、金額が四千万円で最大ですが、確率が二十パーセントで、必要な時間が八十時間なので、時間当たりの期待値は十万円です。

案件Bは、千五百万円で、確率が六十パーセント、必要な時間が二十時間で、時間当たり四十五万円。案件Cは、八百万円で最小ですが、確率が七十パーセントで、必要な時間が十時間なので、時間当たり五十六万円と、最も高くなります。金額の大きさと、時間当たりの価値は、一致しません。

ケーススタディ

期待値で並べ替える

これは編集部が作った架空の事例で、数値は説明用です。

ある営業が、金額の大きい三つの案件に、ほとんどの時間を使っていました。ところが、三つとも、決裁者には会えておらず、四半期の数字が危うくなっていました。

期待値で並べ直すと、金額の小さい、しかし最終調整に入っている案件が、上位に来ました。そこで、時間の配分を変え、上位の案件の締めに集中しました。大きな案件は、決裁者に会うための調整を、低いコストで続けることにしました。

結果として、四半期の数字は達成し、大きな案件も、翌期に決裁者との面談が実現しました。

よくある間違い

  • 案件を金額の大きい順に並べて、時間の配分を決めている。
  • 受注の確率を、担当者の感覚や、関係の良さで付けている。
  • 追わない案件を決めず、すべての案件に薄く時間を使っている。
  • 何もしない、という顧客の選択肢を、競合として考えていない。
  • 確率と実績の差を記録せず、付け方を修正しない。

明日から実行すること

  1. まず、自分の主要な案件を五つ選び、金額、確率、必要な時間を、仮でよいので数字にしてください。
  2. 次に、時間当たりの期待値の高い順に並べ替えて、今週の時間の配分を見直してください。
  3. 確率の根拠として、決裁者、予算、稟議の三つについて、事実として確認できているかを書き添えてください。
  4. 確率が低く、時間がかかる案件を一つ選び、低コストで関係を維持する方針に切り替えてください。

3分まとめ

三分でまとめます。案件の価値は、金額ではなく、期待値で測ります。期待値は、金額に受注の確率を掛けたものです。そして、自分の時間は有限なので、時間当たりの期待値で優先順位をつけます。

確率は、感覚ではなく、決裁者への到達や予算の確保といった事実で決めます。トップセールスは、追わない案件を先に決め、時間の配分を変えることで、同じ時間から、より大きな成果を得ています。明日は、主要な案件五つの、時間当たりの期待値を計算してください。

よくある質問

確率の付け方が分かりません。

フェーズごとの過去の実績から出すのが基本です。実績が少ない場合は、決裁者への到達や予算の確認といった事実の有無で、高、中、低の三段階から始め、実績をためながら、数字に直していきます。

時間がかかる大型案件は、すべて避けるべきですか。

避けるのではなく、期待値と時間当たりの価値で、他と比べてください。確率を上げる手が打てるなら、時間をかける価値があります。打てないなら、低コストで関係を維持します。

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