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営業責任者が理解すべきLTVとCAC

売上の目標は達成している。けれども、利益が残らない。そんな営業組織には、共通して見落としている数字があります。顧客一社から得られる生涯の価値と、その顧客を獲得するためにかかった費用です。

前者を顧客生涯価値、略してLTV、後者を顧客獲得コスト、略してCACといいます。営業責任者がこの二つを理解すると、値引き、ターゲットの選定、採用、外注の判断が、一本の物差しでできるようになります。

まず結論

LTVとは、一社の顧客が、取引を続ける間に生む粗利の合計です。CACとは、一社の顧客を獲得するためにかかった営業とマーケティングの費用です。LTVがCACを十分に上回っていれば、顧客を増やすほど、利益が積み上がります。

加えて、CACを回収するまでの期間、つまりペイバック期間を見ます。長すぎると、成長のための資金が不足します。営業責任者は、この三つの数字で、どの顧客に、どれだけの費用をかけてよいかを判断してください。

売上が伸びても、LTVがCACを下回っていれば、売るほど損をします。

なぜこの問題が起きるのか

二つの数字の意味

LTVの簡単な計算は、一か月あたりの顧客一社の売上に、粗利率を掛け、それを月次の解約率で割る方法です。解約率が一パーセントなら、顧客は平均で百か月続く、と考えます。ここでは粗利を使うことが重要です。売上のままでは、原価や提供のコストが無視され、顧客の本当の価値が見えません。

CACの簡単な計算は、一定の期間にかけた営業とマーケティングの費用を、その期間に獲得した新規顧客の数で割る方法です。費用には、営業の人件費、広告や展示会の費用、ツールの費用、外注費を含めます。

二つを組み合わせると、LTVをCACで割った比率と、CACを月次の粗利で割ったペイバック期間が出ます。比率の目安は、よく三倍程度と語られますが、事業の性質や成長の段階で適正な水準は変わるので、絶対の基準ではありません。

経営視点で見ると何が問題なのか

ユニットエコノミクスと、成長の資金

ユニットエコノミクスとは、顧客一社あたり、つまり単位あたりの収益性を見る考え方です。事業全体の損益だけを見ていると、成長の過程で、一社あたりは赤字、ということに気づけません。顧客一社あたりで黒字かどうかを見れば、拡大する価値があるのかが分かります。

資金の観点も重要です。CACは先に支払い、粗利は後から回収されます。ペイバック期間が長いほど、成長するたびに、資金が先に出ていきます。急成長している事業が、資金不足に陥るのは、このためです。

営業の組織にとって、これは、値引きと採用の判断にも関わります。値引きは、LTVを直接削ります。採用は、固定のCACを増やします。どちらも、数字で影響を見積もってから、決めるべきです。

トップセールスはどう考えるか

誰に売るかで、LTVが決まる

成果を出す営業は、売りやすい顧客ではなく、長く、大きく取引してくれる顧客を選びます。契約の金額が小さくても、継続する可能性が高く、追加の取引が見込める顧客のほうが、LTVは大きくなります。

彼らは、値引きにも慎重です。値引きは、その場の受注を取る代わりに、LTVを削り、さらに、将来の価格の期待を下げます。深く値引きして取った顧客が、早く解約するなら、CACの回収もできません。値引きの前に、導入の価値を、数字で顧客に示します。

そして、導入後の成功に、強い関心を持ちます。解約を減らすことは、LTVを上げる最も確実な方法だからです。契約の時点で、導入の目的と成功の定義を、顧客と合意しておきます。

営業責任者はどう設計するか

営業責任者が、数字を使って決めること

  1. まず、ターゲットの選定です。顧客の区分ごとにLTVとCACを出して、収益性の高い区分に、営業資源を寄せます。
  2. 次に、値引きのルールです。LTVへの影響を見積もり、値引きの上限と、承認の条件を決めます。
  3. 三つ目に、採用と外注の判断です。新しい営業一人のCACへの影響と、ペイバック期間を見積もってから、判断します。
  4. 四つ目に、評価と報酬です。受注の金額だけでなく、継続や粗利も、評価に入れる設計を検討します。
  5. 最後に、プロダクトと導入への連携です。解約の理由を集めて、プロダクトと導入支援の改善に戻します。

数字で分解する

計算を、具体的にやってみます。数字は説明用です。顧客一社の月額の売上が十万円、粗利率が七十パーセント、月次の解約率が一パーセントとします。一か月の粗利は七万円で、顧客は平均百か月続くので、LTVは、七万円を〇・〇一で割った、七百万円です。

CACは、新規顧客の獲得に、半年で九千万円かけ、六十社を獲得したとして、一社あたり百五十万円です。LTVをCACで割ると、約四・七倍。ペイバック期間は、百五十万円を月七万円で割って、約二十一か月です。

次に、値引きの影響を見ます。月額を十パーセント値引きすると、売上は九万円になりますが、提供にかかる費用の三万円は変わらないので、月の粗利は七万円から六万円に下がります。LTVは、六百万円と、約十四パーセント減ります。さらに、解約率が二パーセントに悪化すれば、LTVは半分になります。値引きや、ターゲットの違いが、解約率を通じて、LTVに大きな影響を与えることが分かります。

図表|LTVとCACの計算例(数値は説明用)
項目数値計算
月額の売上10万円—
粗利率70パーセント—
月次の解約率1パーセント—
月の粗利7万円10万円かける70パーセント
顧客生涯価値700万円7万円を1パーセントで割る
顧客獲得コスト150万円9000万円を60社で割る
生涯価値と獲得コストの比約4.7倍700万円を150万円で割る
ペイバック期間約21か月150万円を7万円で割る

編集部の整理です。数値は説明用です。

ここでは、顧客生涯価値と顧客獲得コストの計算例を示します。月額の売上が十万円で、粗利率が七十パーセントなら、月の粗利は七万円です。月次の解約率が一パーセントなら、顧客生涯価値は七百万円になります。

獲得コストは、九千万円で六十社を獲得したとして、一社あたり百五十万円です。生涯価値は獲得コストの約四・七倍で、獲得コストを回収するまでの期間は、約二十一か月です。

ケーススタディ

顧客の区分ごとに、LTVとCACを出す

これは編集部が作った架空の事例で、数値は説明用です。

ある組織は、売上が前年の一・五倍に伸びていましたが、利益が残りませんでした。

顧客を区分して計算すると、小規模な顧客の区分で、CACが高く、しかも解約が早いため、LTVがCACを下回っていることが分かりました。大型の区分は、獲得に時間はかかるものの、LTVがCACを大きく上回っていました。

そこで、小規模な区分への営業資源を減らして、問い合わせ経由の標準的な対応に切り替え、大型の区分に営業を寄せました。数か月後、売上の伸びは緩やかになりましたが、利益が改善しました。

よくある間違い

  • LTVを売上で計算して、粗利を使っていない。
  • CACに、営業の人件費や外注費を含めず、実際より低く見積もっている。
  • 顧客の区分を分けず、全体の平均で判断している。
  • 値引きの影響を、その場の受注だけで評価し、LTVへの影響を見ていない。
  • ペイバック期間を見ず、資金が先に出ていくことに気づかない。

明日から実行すること

  1. まず、直近半年の営業とマーケティングの費用を集計し、新規顧客の数で割って、CACを出してください。
  2. 次に、顧客一社の月の粗利と、解約率から、LTVを概算してください。
  3. 顧客の区分ごとに、二つを比べて、収益性の高い区分を特定してください。
  4. 値引きの承認の基準に、LTVへの影響の見積もりを加えてください。

3分まとめ

三分でまとめます。LTVは、顧客一社が生む粗利の合計。CACは、顧客一社を獲得する費用です。LTVがCACを十分に上回り、ペイバック期間が長すぎなければ、成長するほど利益が積み上がります。

営業責任者は、この二つで、ターゲット、値引き、採用、外注を判断します。トップセールスは、売りやすい顧客ではなく、長く大きく取引する顧客を選び、安易な値引きを避けます。明日は、直近半年のCACを計算してください。

よくある質問

サブスクリプションでない事業にも、使えますか。

使えます。繰り返し購入や追加取引を含めて、顧客一社が生む粗利の合計を概算し、獲得の費用と比べます。

比率の目安は、何倍ですか。

三倍程度とよく語られますが、事業の段階や資金の状況で適正は変わります。自社のペイバック期間と、成長の資金計画と合わせて判断してください。

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